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2014/08/16

書籍 競争優位の終焉/リタ・マグレイス(著)

競争優位の終焉
市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける
リタ・マグレイス(著)、鬼澤 忍(翻訳)
出版社:日本経済新聞出版社(2014/6/19)
Amazon.co.jp:競争優位の終焉

 

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ポーターの理論だけでは、生き残れない。

瞬時に強みが崩れ去り、中核事業が消えうせる。
旧来の常識が通用しない時代の新しい戦略ツールを提唱する。

 

 

本書は、コロンビア大学ビジネススクールの教授で、不確実で不安定な経営環境における戦略の権威として高く評されている著者が、持続する競争優位ではなく、一時的競争優位という前提に基づく一連の新たな手法を提示した一冊です。

2000年から2009年までに、堅実な成長を成し遂げた「例外的成長企業」を10社選んで、その経営手法をまとめた6つの「戦略の新シナリオ」を論じています。

企業や事業を率いるリーダーの方々、戦略論やイノベーションに興味ある方々にとって、従来の競争優位との対比に加え、競争優位に向けた新たな戦略立案のヒントとなる一冊です。

さらに、個人のキャリア形成のあり方についても章を設けて、流動化する現代の労働市場で、個人はどのように行動すべきかを言及しているのも参考になります。

経営環境がめまぐるしく変化する現代においては、業界が安定していた時代の「持続する競争優位」ではなく、「一時的な競争優位」を前提に戦略を立て、現れては消える競争優位の波を次々に乗り越えることの必要性を説いています。

本書は、少なくとも、しばらくのあいだ実践されてきた戦略が行き詰ってきているという前提からスタートした。
業界が安定していた時代、トレンドが多少なりとも予測できた時代、技術の進歩のペースがいまより緩やかだった時代には十分理にかなっていた考え方から抜け出せないのだ。
当時の戦略の発想は、持続する競争優位を利用して安定を手にするというものだった。

本書では、戦略を考える視点を、これまでの「業界」ではなく、「競技場(アリーナ)」に置くべきとしています。

  • ・その理由は、
    最近の多くの市場では、業界が他の業界と競争し、同じ業界内でもビジネスモデルが別のビジネスモデルと競争し、とんでもない場所から全く新しいカテゴリーが現れるという事態が増えている。
  • ・そこで、
    • 市場セグメント、価格、詳細な地理的位置などの関係を反映した新基準が必要であり、
    • 顧客とソリューションの強固な結びつきであり、代替品となる似かよった商品に関する一般的なものではない。
  • ・「チェス」ではなく「囲碁」
    • 従来の業界分析は、主要な市場で圧倒的な競争優位を実現することが目標で、対戦相手にチェックメイトをかける「チェス」に似ている。
    • これに対し、アリーナに基づく戦略は、多くの領地を獲得することを目標にした「囲碁」に似ている。

そして多くの企業を調査した結果、一貫して着実な成長を成し遂げてきた理由として以下を指摘しています。

  • ・企業が推進している戦略は、会社の方針に沿った長期的展望を備えているだけでなく、現在行っているいかなる活動も、将来の成長を約束するものではないと認識している。
  • ・ビジネスモデルに関しては、途方もない内部の安定性を保つ一方で、途方もない対外的な俊敏性(アジリティー)を発揮する方法を見出して実行している。

本書で提示している「戦略の6つのシナリオ」の概要は、以下の通りです。

 

1:安定性とアジリティーを両立させ、変化し続ける

再構成・再構築のプロセスは、優位性が一時的なものにすぎない状況で、価値ある存在であり続けるための秘訣である。
再構成を通じて、資産、人員、能力が一つの優位性から別の優位性へと移行する。

古い優位性から絶えず資源を引き上げ、新たな優位性の開発に投資する。

既存の競争優位を守るのではなく、アリーナからアリーナへと移行する能力をつける。

アリーナからアリーナへ移行するリズムを築きながら、特定のライフサイクル・ステージに応じて運営する。

途方もない「安定性」を発揮している一方、莫大な数の実験とイノベーションを繰り返しているという、「安定性」と「アジリティー」の逆説的な結びつきをしている。

安定性の5つの源泉

源泉1:野望
グローバルな野望を社是に掲げ、あらゆるケースで明確な戦略的方向感覚を持っている。

源泉2:アイデンティティと文化
価値観、文化、連帯に格別な注意を払い、しつこいほどに研修に投資している。

源泉3:人員配置、人材開発
従業員の教育とスキルアップへの意識的に取り組んでいる。

源泉4:戦略とリーダーシップ
明確で単純な少数の戦略的優先事項、企業文化の構築と有能な人材育成の重要性、いくつかの中核的能力を活用している。

源泉5:安定した関係
クライアント、エコシステムパートナーの間の関係もきわめて安定している。

アジリティーの5つの源泉

源泉1:痛みを伴わない小さな変革を重ねる

源泉2:予算編成で資源の抱え込みを許さない

源泉3:効率重視の価値観よりも、柔軟性の強化に投資する

源泉4:イノベーションを本業としてとらえる

源泉5:オプション志向で市場を開拓する

 

2:衰退の早期警報を逃さず、うまく撤退する

衰退しつつある既存の優位性を捨てることが、何かを始めること以上に重要である。

撤退は失われた栄光の落胆すべき印というよりも、価値ある資源を解放し、再び目的を持たせる手段とみなされる。

撤退プロセスを会社の利益へ結びつけるカギの一つは、人々がサービスをどのように使い、どれくらいの利益を生むかを示すデータの透明性である。

6つの撤退戦略

「資産や能力の将来性に関する経営陣の判断」と「撤退を実行するにあたっての時間的制約」の2つの座標軸で整理しています。

1.整然とした移行
事業の特徴を現在の形から明日の形へ移す。

2.土壇場のロングパス
かつての中核能力を捨て、新たな中核へ速やかに移行するためのソリューションを見つける。

3.ガレージセール
もはや興味のない資産を手ごろな価格で売却する。

4.処分特価
もはや活用できない非中核資産を売却する。

5.脱出
投資を減らすとともに、顧客へのサポートの継続には高い料金を課す。

6.最後に残る者
整理統合を促す、利益の出る結末を目指す。

 

3:資源配分を見直し、効率性を高める

流動的で多目的に使える資産は、固定的で特定の目的を持つ資産よりも魅力がある。

資源配分のプロセスを支配することが、一時的優位を有効に活用できる手際のよい組織をつくるカギである。

組織の手際のよさを向上させるには、予算をはじめとする経済資源の移行がカギになるのと同じくらい、組織内の権力構造を変えることが重要である。

 

4:イノベーションを本業としてとらえ、習熟する

一時的優位性の世界では、イノベーションは継続的で、中核的で、管理の行き届いたプロセスでなければならない。

  • ・継続的、漸進的、体系的なものでなければならない。
  • ・イノベーションのための通常予算をとる。
  • ・有能な人材には、イノベーションのキャリア積ませる。
  • ・イノベーションと中核事業支援のバランスがとれた事業ポートフォリオを積極的に運営する。
  • ・自社の重要な活動を支える組織プロセスに、イノベーションを組み込む。

試行錯誤や思いがけない失敗に対して寛容な実験志向、イノベーションの各段階を管理する明確なプロセス、イノベーターのためのキャリアパスなどを確立する。

イノベーション・システムの各局面を管理する能力を高める。
その核となる要素は、ガバナンスシステム、アイデア形成、発見と仮説の検証、市場の検証と育成、新規事業の商業化と既存事業への組み込みといった活動を支援するシステムがあげられる。

イノベーションに習熟する6つのステップ

ステップ1:現状を分析し、成長ギャップを明確にする

ステップ2:上級幹部から支持と資源配分を受ける

ステップ3:イノベーション管理プロセスをつくりあげる

ステップ4:システムの構築と組織への導入に着手する

ステップ5:具体的かつ実現的なことから始める

ステップ6:イノベーションのサポート体制を築く

イノベーション・システムの重要な側面

真の専門技術を要する。

その技術の修得には長い時間がかかる。

そのためには、

  • ・社員がスキルを修得するにあたって一貫して役立つキャリアパス、修得した際の見返りを設ける。
  • ・イノベーション・アイデアのためだけに時間を費やし、ひらめいたアイデアを実行に移す余裕を持ち、失敗する可能性がどこにあって失敗した場合にどうすべきかについて確かな知識をもっている組織を構築する。

 

5:新時代のリーダーシップとマインドセット

競争のペースが速くなるにつれて、意思決定は「だいたい正しい」判断のもとで素早く下さなければならなくなる。

予測や「正しさ」よりも、素早く反応し、修正措置をとる方が重要でになる。

リーダーシップに求められるもの

自社の方針を支配する中核事業から、等しく重要なオプションへと力点を移す。

更新とイノベーションを継続させる力を持つ。

早期の警報を察知し、組織に注意を向けさせる能力を持つ。

変化の激しい優位性という難題に対処するための方策

より安定した時代とは異なる組織の想定とリーダーのマインドセットが必要である。

本当の情報を探し出し、悪いニュースに対峙し、適切な対策をとる能力と意欲が重要である。

学習能力の原則

社員が何をすることになるかが正確にわからなくても、人材への投資を継続する。

既存の想定を裏付ける好意的なニュースだけを探す傾向と戦う。

 

6:あなた個人への影響について考える

組織そのものが、競争上のニーズに応じて生まれ、消え、変化する時代においては、個人についても、ある時点で価値のあったスキルがいつまでも豊かで上質な人生を保証してくれると思ってはならない。

成功を収める経営者やリーダーは、自らの事業にいままでとは異なるマインドセットをもたらす。
素直さを旨とし、悪い知らせに直面するのを恐れないマインドセットを持つ。

新しい時代に対応してくためには、

  • ・自身のスキルを維持し、必要とされる存在であり続け、自分の価値を他人に売り込むための輝かしい業績を生み出すべく投資する。
  • ・常に次の職を探しているのだと考えて準備を整えておく。

 

まとめ(私見)

本書では、世界の動きに応じた新たな想定に基づく脚本として「戦略の6つのシナリオ」を提示し、各シナリオについての新旧対比し、詳細な事例研究を紹介しながら新たなシナリオを解説しています。

その根底は、以下にあると考えます。

  • ・これまでの企業は、競争優位を持続するために戦略を立ててきたが、経営環境がめまぐるしく変わる現代においては、それは通用しないばかりか足かせになる。
  • ・そこで、「一時的な競争優位」を前提に戦略を立てて、競争優位の波を乗り換えていくべきである。

この考えは納得感がありますが、必ずしも全く新しい主張ではありません。

経営理念やコアコンピタンスを基本に、置かれている時代の経営環境や市場ニーズに応じた戦略を立てて実践していくことの必要性は、経営学に限らず実務の最前線で活躍されている多くの方々が主張されていることです。

しかし現実には、従来の戦略に固守して戦略転換できず窮地に陥った事例も多く見受けられます。

  • ・特に、成功企業や大企業などでは、変化を拒み、自分たちのやり方に固守する傾向が強くあります。
  • ・その主力事業は、従来の戦略で成功してきた自負もあり、企業内での政治力も発言力もあるので、新たなやり方や事業の芽が出でくると否定する傾向にあることも理解できます。

本書では、一時的競争優位を前提にして、それを乗り換えていくための手法を、企業戦略だけではなく個人のキャリアにまで提示しています。

安定性と俊敏性(アジリティー)、撤退戦略、資源配分、イノベーションのマネジメント、リーダーシップとマインドセット

戦略、企業の選択、組織の運営に関して、自らの考えや実践していることを改めて整理することができ、さらに個人のキャリアプランを考えるきっかとなる一冊です。

 

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