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2013/03/26

書籍 ワイドレンズ(WIDE LENS) 成功できなかったイノベーションの死角/ロン・アドナー(著)

ワイドレンズ(WIDE LENS) 成功できなかったイノベーションの死角

ロン・アドナー(著)、清水 勝彦(監訳)
出版社:東洋経済新報社(2013/2/8)
Amazon.co.jp:ワイドレンズ

 

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イノベーションを成功に導くエコシステム戦略

革新的なはずの製品やサービスがなぜ成功しないのか?
スマートフォン、電子書籍、電気自動車などの最新事例のトピックスを取り上げながら、エコシステム(生態系)全体でビジネスを捉えるための手法を紹介

 

本書は、ダートマツ大学エイモス・ダックビジネススクールの教授で、MBA学生から圧倒的な指示を受け、数々のベストティーチャー賞を受賞している著者が、エコシステム全体を見るためのツールとして「ワイドレンス」を紹介し、企業事例と対比しながらイノベーションと成功とのギャップを明らかにしながら、企業が「死角」に陥らずに成功に導いていくための方法を解説した一冊です。

なお、本書のベースとなった『ハーバード・ビジネス・レビュー』の論文は、全米のMBAプログラムで必読文献とされているそうです。

 

本書は、以下の3部で構成されています。

  • ・第一部「エコシステムの全体像を捉えるワイドレンズ」では、
    キーコンセプトを紹介し、イノベーションの「死角」が生まれる要因、それが手遅れになるまで見逃されて修正不能になってしう要因について考察しています。
  • ・第二部「エコシステム内のポジションを決める」では、
    分析から選択への段階に進み、いかに選択肢を評価し、ポジションを決め、市場参入のタイミングを検討するかを議論しています。
  • ・第三部「ゲームに勝つ」では、
    エコシステムを作ったり変えたりする戦略を提案し、ワイドレンズで得られるツールを使って失敗を回避し成功確率を高める方法を提案しています。

イノベーションについて研究されている方々やイノベーションに興味のある方々にとっては、成功のカギとなる商品を取り巻く「生態系(イノベーション・エコシステム)」という視点は、新たな研究材料として参考になります。

また、実際に事業を推進しているビジネスリーダーの方々にとっては、本書で紹介されている視点やツールを自身のビジネスに当てはめることで、戦略やイノベーションを考えるうえで新たな見方を得ることができそうです。

 

今日の模範的となっているような企業は単に自社の戦略をミスなく実行しているというだけではない。
そのような企業はパートナー企業群の行動を巧みに組織化し、トータルの努力で、生み出される価値を何倍にもしているのである。
このような企業は、「死角」の特長をよく理解し、広い視野を持っている。
そして戦略を決定する際に視野(レンズ)を広く持ち、エコシステム内に生まれるチャンスを取り込むことで成功してきたのである。

 

ワイドレンズ(広い視野)から見たイノベーション戦略

図の引用:「The Wide Lens」

20130326wide_lens_2

自己の「実行リスク」がエコシステムのパートナーによるリスクとどのように関係するかを前もって管理することにより、戦略を再考し、より良い成果を生み出すことができる。

戦略は成功につながる外部の依存関係を適切に考慮しなければならない。

顧客、機能、競争から視点を広げ、水面下に隠れた依存関係を明らかにしたり、予測可能な問題を回避したりして、戦略の選択や実行をより効果的に行うことができる。

しかし、これまでのマネージャーの多くは「実行上の課題」に焦点を合わせてしまい、コーイノベーションやアダプションチェーンのパートナーの意味を見逃している。
コーイノベーションのロジックは掛け算(平均ではない)であるのに対し、アダプションチェーンは最小値(トータルのプラスではない)のロジックに従う。

 

実行の中心課題

タイミングよく、適度なスペックで、競争相手に先行して優れたイノベーションを市場に出すにはどうしたらよいか?

→リスク:要求された時間内で、仕様を満たすイノベーションを実現できるかどうかのリスク

コーイノベーション

自分のイノベーションが成功するため、他の誰のイノベーションが必要か?

→リスク:自分のイノベーションの商業的成功は、他のイノベーションの商業化に依存するリスク

アダプションチェーン

エンドユーザーが提供価値を評価する前に、他の誰がそのイノベーションを受け入れる必要があるか?

→リスク:パートナーがまずイノベーションを受け入れなければ、顧客が最終提供価値を評価することすらできないリスク

 

ワイドレンズで成功確率をあげるステップとツール

目的

  • ・開始時点で先を見通し、問題の多い要素への対応を計画し、戦術面での場当たり的な調整を回避する。
  • ・新しい施策に深く飛び込む前に、成功のチャンスを得るために必要なエコシステムと、そこで何を組み合わせる必要があるかを理解する。
  • ・最終的な成功は判明していなくても、最初から失敗する施策を取り除けば、賭ける施策対象の範囲を限定することができて、成功確率が上がり、限られた資源を空費する必要もなくなる。

 

ステップ1.価値設計図をイメージする

ツール:価値設計図

  • ・単に「提供価値が何か」だけでなく、いかにして実現するかのビジョンを明確化し共有する。
  • ・バリューチェーンとサプライチェーンとも関連し、成功のために重要な補完的パートナーが、どこでどのように繋がっているのかを明確にする。
  • ・隠れたコーイノベーション・リスクとアダプションチェーン・リスクを明らかにする。

ステップ2.役割と実行時期を明確にする

ツール:リーダーシッププリズム、先行者マトリックス

  • ・リーダーシッププリズムで、リターンの配分を評価し、エコシステムのリーダー候補を確認する。
  • ・先行者マトリックスで、スタートする際の理想的なタイミングを決定する。
  • ・先行者として優位性を築くことができるかではなく、どのような状況であれば優位性が存在するかを考える。

ステップ3.相互依存の世界において必要な要素を集める

ツール:エコシステム再構築の5つのレバー、最小限の要素によるエコシステム(MVE)、段階的拡張、エコシステムの継承

  • ・エコシステムの制約条件を踏まえながら、完全な価値提案ができるような計画を立てる。
  • ・エコシステム再構築のためには、「再配置、統合、削除、追加、分離」の5つのレバーで問題のボトルネックを取り除く。
  • ・提供価値のための最適な順序を発見し、その優位性を他の機会に展開する。

 

なお本書では、「プロトタイプ→実験→展開」のモデルは、提供する製品を自身でコントロールできるイノベーションに適しているとし、エコシステムの場合は上記ステップを薦めています。
この「小規模実験を大規模に展開する」アプローチには特に以下の問題があるとしており、双方のの考え方の違いを考えるもの意味があります。
①最初から対応しなければならないコーイノベーションとアダプションチェーンのリスクを増大させる。
②実験が成功した場合でも、相互に依存するパートナー全てを同時に大規模展開に移行させることは難しい。

 

本書の中核となるメッセージですが、言われてみれば「その通り」で目新しさを感じないかもしれませんが、本書を読み込んでいくうちに多くの気づきを得ることができました。

  • ・かつて、1920年代の製造のライン化、1950年代の系列化やジャスインタイム、1990年代のTQCなど、最初に手を付けた企業が大きな競争優位を享受していた。
    しかし、多くの組織で導入されきた今では、単なるオペレーションレベルでの必要条件となっている。
  • ・次の転換期は、ジャストインタイムによる生産、リーン在庫管理などによるサプライチェーンマネジメントであるが、これらも同様にすでに多くの企業で取り組んでいる。
  • ・今では、どんなに素晴らしいイノベーションも単独企業だけは成功することはできない。
    最終的な成功を手にするためには、パートナーとどのような関係を築くかが不可欠になっている。
    そのためには、広い視野(ワイドレンズ)で見て、戦略を構築すべきである。

 

本書で紹介されている企業事例の一つに、エコシステム・リーダーとしてのアップルがあります。
アップルは、革新的な商品を独自で開発して新たな市場を創造してきたかのように思っていましたが、著者は「アップルこそエコシステムの継承と活用を熟知していた」ことを詳細に解き明かしています。

一方、日本の基幹産業においては、かつて系列化された構造があり、多くの中小企業が産業を支え、一定のエコシステムが機能していたはずです。
本書では「過去の差別化要因(今やオペレーションレベルでの必要条件)」と指摘していますが、オペレーション以外に人的・ノウハウ面からの交流を含めた協働の理念も根底にあったと私は考えています。

しかし、時間の経過とともに系列内での「もたれ合い」、新興国の低価格に対抗するための「強制的な値引き」などにより、本来の「結びつき」が失われてきているように感じます。

どこまで視野を広げるかは、個々の業界によって違うでしょうし、合理的な解はないかもしれませんが、成功のカギとなる商品を取り巻く「生態系(イノベーション・エコシステム)」をもう一度構築していく必要があると考えています。

 

また、本書にもツールやフレームワークが多く紹介されています。
ツールやフレームワークといえば、作成する(言葉を当てはめる)ことが目的化して、作成したら安心していまう場面を垣間見ることがあります。

ツールやフレームワークは、組織の中での会話のガイド役であり、活発な議論を繰り返しながら仕上げていき、その成果物を全員で共有・実行し、評価・修正していくことに意味があります。

本書で紹介されているツールやフレームワークも、新たな議論の視点を与えてくれます。
最初に良い選択をして、注力すると決定した施策をより良く管理することに役立つものとなりそうです。

 

 

参考

本書の関連サイト:The Wide Lens
ツールや無料の章、追加資料やアップデートなどが掲載されています。

講演ビデオ:Seeing with a Wide Lens(6:05)

 

本書と対比して読んでおきたい書籍(当ブログ)

デザイン思考と経営戦略
奥出 直人(著)
出版社:エヌティティ出版(2012/5/10)

リーン・スタートアップ(Lean Startup)
エリック・リース(著)、伊藤 穣一(解説)、井口 耕二(翻訳)
出版社:日経BP社 (2012/4/16)

ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書
アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール(著)、小山 龍介(翻訳)
出版社: 翔泳社 (2012/2/10)

 

 

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ワイドレンズ 成功できなかったイノベーションの死角

ロン・アドナー(著)、清水 勝彦(監訳)
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